ニッチ戦略 ”戦わない”という戦い方

ビジネスで成功を収めるためには、市場をよく理解し自社の立ち位置を明確にする必要があります。しかし、特に中小企業は真っ向から戦っても大企業に資本力で負けてしまうことも多いです。
そこで、今回は”ニッチ戦略”という戦略をご紹介します。
真向勝負だけでなく、企業には様々な戦い方があります。大企業に負けず市場を勝ち抜いてきた事例も一緒にご紹介するため、ぜひ参考にしてみてください。
”ニッチ”とは
”ニッチ”とは、市場の特定の部分に焦点を当て、その特定の部分に対してサービスや商品を提供する”隙間”のことです。大企業や他社が市場の全体を狙って戦略を打ち出すのに対し、ニッチ企業は大企業や他社が狙わない隙間を狙うことで特定の市場からは確実に支持を得ることを目的とします。

リーダー企業との違いをアピールする差別化戦略ではなく、リーダー企業と戦わない方法を選ぶマーケティングです。
隙間市場のことをニッチ、ニッチを狙って生き残る企業のことをニッチ企業、ニッチャーと呼ばれます。
競争地位別戦略での立ち位置
以前紹介した競争地位別戦略では、ニッチャーは質的経営資源には優れているが、量的経営資源は劣っている企業であると紹介しました。隙間市場(ニッチ・マーケット)において特定のセグメントを対象にしたミニ・リーダーになることが出来、「集中化戦略」が有効な戦略です。

ニッチ市場の種類
”特定の市場”と言ってもニッチ市場には様々な形があります。特定の地域に特化したもの、特定の製品に特化したもの、特定の価値観に基づくものなど簡単に”特定”といってもその種類は多岐に渡ります。
そんなニッチ市場にはどんな種類があるのかを一部ご紹介します。
- 技術ニッチ
他社には真似しがたい技術を使って市場のニーズに応えるニッチャーです。
技術ニッチでは、多くの企業には必要とされていない技術でも、一部の市場に需要があるような技術を提供します。求められる市場が小さかったり、高度な技術であればリーダー企業も模倣することが困難なため、ニッチ企業として邁進することが出来ます。
- 特殊ニーズ・ニッチ
特殊なニーズに対応した製品・サービスを提供し、限られた市場を獲得するニッチャーです。
例えば、朝日印刷株式会社では、医薬品向けの印刷包材を提供しています。医薬品の表示や法律により細かな規定があり、規定を守る必要があるためリーダー企業ではニーズに応えにくいです。また、制度改定への対応も求められるため、リーダー企業や他社が簡単には参入することが出来ない市場でニーズに応えられる会社です。
- ボリューム・ニッチ
リーダー企業が参入するには小さすぎる市場で地位を築くニッチャーです。
スポーツ用品の市場においても、野球やサッカーなどは大手も参入していますが、卓球やバレーボール、運動機器などは市場が小さいため他社が参入しにくいです。そんな小さい市場において確実に地位を築く戦略です。
- 空間ニッチ
特定のエリアを対象として展開し、特定のエリア内でのシェアを広げる戦略です。
コンビニ業界では、セイコーマートが空間ニッチ戦略を取っています。セイコーマートは北海道という特定のエリアを中心に展開し、北海道ではリーダー企業であるセブンイレブンを上回る人気を誇っています。特定のエリアに展開することで地域特有のニーズに応えることが出来、エリアからの支持を得ることが出来ます。実際、セイコーマートは関東圏にも店舗を出していますが関東ではセブンイレブンの脅威には勝てないようです。
ニッチ戦略のメリット・デメリット
ここで、ニッチ戦略を行う際のメリットとデメリットを3つずつ紹介します。
導入を検討する際は、メリットもデメリットも理解したうえで検討をしましょう。
メリット
- 市場による収益を独占できる
ニッチ市場では、競合の企業や製品・サービスが存在しないため、独占市場になります。そのため、市場における収益をすべて得ることが出来ます。また、高い価格設定をしても比較対象となる他社がいないため、利益率を上げることもできます。高い利益率で収益を独占することが出来ることが、ニッチ戦略のメリットです。
- 企業の知名度が上がる
ニッチ市場での事業が成功した暁には、自社の知名度を上げることが出来ます。市場に置いては先駆者として名前を広めることが出来、新規顧客や取引先の獲得につなげることが出来ます。また、メディアなどで取り上げてもらう機会があればさらに社名は広がり、ブランドイメージの浸透も期待することができます。ニッチ市場で高いシェアを獲得すれば、世間からの注目を集め、高い知名度を得ることが出来ると考えられます。
- 顧客満足度の向上
顧客からすれば、自分のニーズに応えてくれる企業が誕生しているため、商品への満足度は高く、企業への信頼感にも繋げることが出来ます。顧客との強い関係性を作り上げることができるため、ブランドへの忠誠心を高めることが出来ます。
デメリット
- 市場が成長しない可能性がある
ニッチ戦略で選ぶ市場規模は小さく、限られた市場である場合が多いです。そのため、限られた市場では成長機会が制限される場合があり、仮に市場シェアが伸びたとしても市場自体が小さく利益には繋がらない可能性があります。また、これまでにない製品やサービスを提供するため、顧客に受け入れられないこともあります。ニーズに応えた製品・サービスであったとしても、必ずしも受容されるとは限りません。そのため、新しいモノを提供するために出した投資額と収益が見合わないなんてことも考えられます。
- 他社の参入
ニッチ市場であっても、市場規模が拡大すれば他社が参入してくる可能性があります。他社が参入することでこれまでの独占市場が崩れ、顧客が他社へと流れることも考えられます。これまで行う必要性がなかった他社との差別化戦略が必要になるなど、新しい戦略を練る必要があります。
- 市場ニーズの変化
限られた市場で製品やサービスを提供することで、ニーズに応えやすいことはメリットではありますが、市場ニーズが根本的に変わってしまったり、ニーズがなくなってしまったりする可能性があります。その際に、どれだけ柔軟に対応できるかが求められるため、市場の動向には常に敏感である必要があります。
成功事例
フェラーリ社
高級スポーツカーで有名なイタリアの自動車メーカー「フェラーリ」は限定ニッチという戦略を行っています。
自動車の生産、供給量を意図的に限定し、自動車業界の中では小規模で行っています。しかし、一台当たりの利益率はトヨタやベンツ、ポルシェを上回ります。
「需要より一台少ない数を作る」という社訓の基、製品に希少価値をつけオリジナルブランドを確立しました。
株式会社フェリシモ
オンライン通販で雑貨や衣類を販売するフェリシモも、ニッチ企業のひとつです。
様々な部類の商品が提供され、共通店のないように感じますが、「自己表現をしたい」「自分らしさを大切にしたい」と思う顧客をターゲットにしています。
顧客の特定のニーズに応えられるよう、毎月新商品を発表するなどして顧客の心を掴んでいます。
他の通信販売会社との差をつけ、独自の市場を作り出しました。
まとめ
いかがでしたか?
今回のコラムでは”ニッチ戦略”についてご紹介しました。
企業が市場で生き残っていくためには、リーダー企業になるか、リーダー企業に立ち向かうかの2択だけでなく、あえて「戦わない」という戦い方もあります。
自社独自の戦い方で、新たなブランドを確立していきましょう。